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2009/02/05 (木) カテゴリー: 映画・DVD

スーパーボウル会場での国歌斉唱までをも勤め上げた超人気カントリーグループ、ディクシー・チックスのイギリス公演中、折しも火蓋を切ったイラク戦争に絡んで、リードシンガーのナタリー・メインズが「ブッシュが同郷で恥ずかしいわ。」と発言したのが始まりだった。
なにせリスナーの大半を保守派が占めるカントリーミュージック界。これはNOFXがブッシュ批判をするのとは、ちょっと訳が違う。
彼女らは自分たちの今までのファンからのバッシングに晒される事となる。ラジオからは締め出され、CDは捨てられてまとめて廃棄処分される。
彼女たちからしてみれば青天の霹靂だった。元々彼女らはポリティカルな立場にあるグループではないし、本来の政治信条だって穏やかなものだ。
「戦争は嫌よね。」そんな気分でポロッと出た軽口。この時の映像を見る限りその程度の印象だ。
しかしブッシュとイラク戦争を支持する人間たちは、そうは受け取らない。ましてやそれが今まで自分たちが愛でていたカントリーの歌姫たちによる発言である。飼い犬に手を噛まれるとはこの事だ。
小娘ども、お前らは余計な事は喋らず、ただ俺たちに耳障りのいい歌を歌っていればいいんだ(シャラップ&シング)。
「何でこんな騒ぎになっているの?」当惑する彼女たち。「あれは些細なジョークですって取り繕う事はできないの?」
人気の頂点にいるミュージシャンの軽はずみな舌禍事件。日本ならきっと巨大掲示板で囃し立てられ、ミクシィには脊髄反射のニュース引用日記がずらりと並ぶことだろう。ここまでならよくある話だ。

ここからの彼女たちの腹の括り方が実に見事で惚れ惚れとするのだ。
おのれの言ったことに対する責任はきちんと持とう。それに軽い気持ちで放った言葉だが、よくよく考えてみれば決して間違った事は言っていない筈だ。
それから彼女たちの徹底抗戦が始まる。ラジオ局にも頭を下げはしない。保守派カントリーの大物シンガー、トビー・キースとも真っ向からやり合う。そしてその極みは、自分たちに対する批判を逆手にとったエンターテイメント・ウィークリー誌のセミヌード表紙。
彼女たちを批判する者だって黙ってはいやしない。ダラス公演の直前に送りつけられるメンバーの殺害予告。
これに対し「こんな脅しで私の信念を曲げさせはしないわ。」などと反応したら、いっきにこのドキュメンタリーは安っぽくなるところだが、ナタリーはこの脅迫文に心の底から怯え、何を考えたのか占い師に電話して「私の運勢どうなってる!?」と相談する有様だ。
彼女を笑う無かれ。2ちゃんの殺害予告とは訳が違う。これを送りつけてきた人間は、FBIもマークする札付きの要注意人物なのだ。

こんな逆風に晒され続ける間に、彼女たちはあの力強い大傑作アルバム"Taking the Long Way"を作り上げ、そして子供まで出産したのだ。
イデオロギーなどに寄りかかることなく、おのれを貫き通した。母とは、女とは、なんと強く逞しい生きものであろうか。
そしてチックスは、カントリーミュージックの枠を飛び越えてさらなる大きな存在となり、やがてあの騒動の発端となったイギリス公演のステージに立つ。
そこでナタリーは、あの時とは違い、今度は覚悟をきめた力強い声で、もう一度例の台詞を口にするのだった。
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