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アドベンチャーゲーム
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2023/07/31 (月) カテゴリー: XBOX Series X|S

チリのピノチェト軍事政権下で殺されたり行方不明になった反体制派の数は公式で3000人以上、何らかの形で迫害を受けた人は10万人に及ぶという。
それではいけないとは分かっていても、どうしても数字で捉えてしまう。
犠牲者が数人であればその人の行動や思いに対して考えを馳せる余地があるが、それが膨大な数に及ぶと無機的な数字の前に思考が硬直化してしまうのだ。

その3000、あるいは10万人の人々にはもちろんそれぞれの人生やシチュエーションがあり、大まかに反体制派として括られていても、それぞれの国に対する愛情の度合いや理想は千差万別であろう。
このゲームの舞台となる架空国家ペトリアも、やはり全体主義政権が幅を利かす国。
その圧政から逃れようと多くの若者たちが国境からの脱出を目指し、そして志半ばで姿を消していく。
そしてペトリア国内や国外のニュースでは、数百人の若者が行方不明と一括りに伝えられ、我々はまた大まかに数字で捉えてしまうのであろう。

だがいずれも名もなき若者たちだってこれまたもちろんそこに至る道筋はそれぞれに違うし、懐具合もばらばらなら道中での出来事や人々との出会いや別れも百人百様だ。
そしてある者は幸運にも国境の向こう側にたどり着き、ある者は国家権力に捕縛され、そしてある者は道中半ばで非業の死を遂げる。
ROAD96を目指すそれぞれの重たい道程が一つ終わりを迎えるごとに、プレイヤーはその重たい結果を受け止めながら別の若者の道のりを綴り出す。

国の圧政からの逃避行では、その判断の一つ一つが重たい。
自分のみならず出会う人々の運命すらも左右する選択の数々は、そのいずれもが重苦しい圧迫感を伴ってくる。
ともすればそれは国や同胞の行く末を決定づける選択となるかもしれない。
だがプレイ中につきまとう閉塞感を和らげてくれるのは、やはり国の現状に翻弄される様々な立場の人たちとのロードムービー的な出会いや交流だ。

『ROAD 96』のもっともユニークなところは、プレイヤーキャラとなる名もなき若者が狂言回し的な役割を担うことによって、真の主人公である人物たちのそれぞれの人生をブリッジする一風変わった構造だ。
警官、トラック運転手、体制派のニュースキャスター、天才少年ハッカー、頭のネジの外れた二人組強盗、シリアルキラーのタクシードライバー。

その無名性も相まって、プレイヤーキャラの若者たちは、これら真の主人公たちに対するモブ的な立ち位置を感じさせることがあるかもしれない。
そしてそれはピノチェトやヴィクトル・ハラといった世に知られた人物たちの向こうに、3000、あるいは10万人の、それぞれの人生や行動や信念や理想が存在していたことを教えてくれるのだ。
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