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コンビニムック【昭和プロレス名勝負列伝】

   ↑  2010/09/05 (日)  カテゴリー: 書籍・コミック
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手元に"昭和プロレス名勝負列伝"というコンビニムックがある。
今から約2年前に出版された本で、別冊宝島のプロレス読本シリーズを再構成した内容。
書き手も井上義啓や杉作J太郎から、ターザン、ナガレトモミ、ヤスカクと、それこそピンからキリまでなのだが、ついこないだ読み返してみたら、やはり井上義啓元ファイト編集長が書かれた記事が、べらぼうに面白い。
この本、前半は昭和プロレスタイトルマッチBEST20、後半は昭和異種格闘技戦BEST20の二部構成なのだが、その後半で井上編集長が取りあげた試合が、なんとアントニオ猪木とキム・クロケイドのWWFマーシャルアーツ世界ヘビー級タイトルマッチなのだ。
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猪木対クロケイド。後付けで猪木の一連の異種格闘技戦を観た俺にとっては、失笑しか湧いてこない試合である。
いや、当時リアルタイムで観た人たちだって同様だっただろう。
キム・クロケイド。カナダの現職警察官にして、全カナダカラテトーナメント優勝者という触れ込みのカラテマン。
本当の事しか描いていない傑作実録劇画"四角いジャングル"の中で、彼は華々しい登場を果たす。
カナダのプロレス試合会場。タイガー・ジェット・シンの控え室に居座る黒い胴着の男。
怒りのシンがサーベルの一撃を繰り出すと、黒い胴着の男は肘打ちと膝蹴りの複合技で、なんとこのサーベルをポキリとへし折ってしまう。
「そのクロケイド("四角いジャングル"中ではクロケード表記)という男のカラテは本物ですわい」
このエピソードを聞いた"格闘技の鬼"黒崎健時会長は、クロケイドの実力に確かなお墨付きを与える。
そんな実戦カラテの実力者が、アントニオ猪木に敢然と挑戦状を叩き付けた!
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少年マガジン連載の劇画でそんな華々しいデビューを飾り、しかも黒崎先生にそんなセリフまで言わせて持ち上げた、このカナダの実戦カラテマン。
よほどの実力者を連れてこなければ、黒崎先生の顔を潰して大変なことになってしまう。ああ、しかし、新日本プロレスは、そんな黒崎先生や梶原一騎先生に対する配慮なんか微塵も払わず、このカナダ人空手家の中身の選定とブッキングを、カルガリー在住のミスター・ヒトに一任してしまうのであった。
後に長州力の異種格闘技戦の相手として、トム・マギーという香ばしい奴を連れてきたりしたミスター・ヒト。
「ミスター・ヒトの連れてくる奴は、どれも限りなく胡散臭いが、ミスター・ヒト自身はもっと胡散臭い」
そんな定説をプロレスファンに深く植え付けているヒトさんだが、そのルーツはこのクロケイドにあった。
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劇画と同じ黒い胴着に身を包んだクロケイドであったが、その佇まいからは実戦武道家のオーラは微塵も感じさせない、劇画のイメージとはおよそほど遠い野郎であった。
時折繰り出すサイドキックは足が上がらず(このへっぽこな蹴りを「距離を測ってるんですよ」とフォローする、山本小鉄さんのストロング解説!)、その肘打ちは足を大きくマットに踏み出して音を立てるプロレス風のエルボー。
おまけに嬉々として自分から場外乱闘に走り、猪木の攻撃を喰らえばしっかりと受け身をとる。
どっからどう見ても単なるプロレスラー。しかも日本では全く顔が知られていなかったから、要はカナダの相当なローカルの三流レスラーに、無理矢理胴着を着せて日本に連れてきただけのことなのだ。
後に大仁田厚がFMWで乱発して、我々をさんざん微笑ませてくれた手法なのだが、しかしそれをこの生真面目な昭和プロレスファンたち。しかも猪木と極真カラテの対決が風雲急を告げるこの時期に用いるとは、新日本プロレスも相当いい度胸している。

そんな凡戦以前の問題の、猪木本人ですら忘れたいくらいの迷勝負。しかしストロングスタイルの見巧者である井上編集長の、この試合を見る目は違った。
キーワードは、編集長お得意の”殺し”である。当日のクロケイドの佇まいからは、確かに”殺し”は感じられなかった。しかし、本当にクロケイド自身に”殺し”は無かったのか!?
我々がもしそう問われたら「……ありませんよ」と冷静な顔をして答えるところだが、しかし井上編集長がこの質問をぶつけた相手は、本当の事は何にも分からない我々のようなボンクラシュマークではない。
当日、この試合を裁いた日本正武館の鈴木正文館長に直接ぶつけたのだ。クロケイドはこの試合前に、正武館で鈴木館長自らの教えを受けたという経緯があったのだ。

「館長、クロケイドに”殺し”はありましたか?」
その問いに、笹川良一先生の腹心として数々の修羅場を潜り抜け、その合間に映画にも出演し、スクリーンというあちらの土俵にも拘わらず、あの千葉ちゃんすらも倒した剛の者、鈴木館長は明快に答える。
「ありましたよ」
!?
「ただしクロケイドが修羅場を潜ってきたのは、彼が10代から20代にかけての話。今は家庭のある身ですから、彼が”殺し”の片鱗を見せなかったのは当然です。だけど私は彼が本当に喧嘩をさせたら怖い男だと見抜きましたよ」
ここで「正武館が関わった興行の試合だから、リップサービスが入っただけなんじゃないですか?」などと指摘してはいけない。
虚と実が見事に入り交じったストロングスタイルのやり取り。プロレスや武道、格闘技界が、まだ底の見えない底なし沼だった頃を渡りきってきた人たちは、今の干上がった枯れ地のようなプロレス・格闘技界しか知らない我々とは、やはりレベルが違う。
こんな一見凡戦以前の迷勝負ですら、彼らの手にかかると底の見えない試合になってしまうのだ。
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試合前、リングの上に立ち並ぶ猪木、クロケイド、ヒト、鈴木館長、サブレフェリーの遠藤幸吉、そしてコミッショナーの二階堂進代議士。
このこってりとした面子を見るだけで胸焼けしそうだ。リング上で笹川良一の腹心と、田中角栄の参謀が肩を並べているのだ。この頃の新日本プロレスが、いかに底なし沼であったかの証明のようなメンバーではないか。
あ、それと、この試合のラスト。猪木のギロチンドロップを喰らってぴくぴくするクロケイドの痙攣っぷりは、ジャンボ鶴田、テリー・ファンクと並ぶ”プロレス三大痙攣”に入るほどの、味わい深いぴくぴくだと思います。
"四角いジャングル"作画担当の中城健さんも、このぴくぴくは結構お気に入りだったんじゃないでしょうか。心なしか絵にも力が入っているようです。


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