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アドベンチャーゲーム
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2021/09/21 (火) カテゴリー: XBOX Series X|S

エルヴィスやビートルズは今の時代でも魅力を保っているし(ポップカルチャーとしての鮮度はまた別にして)、こと音楽で言えば数世紀前に誕生したクラシックも充分現役の存在だ。
しかしコンピュータテクノロジーのあまりにも性急な進化と密接な関係であったビデオゲームの場合は難しい。
わずか数十年前のゲームですらも、今となるとそのままの状態では経験者といえど、プレイアビリティや諸々の問題からなかなかスムーズに遊べたものではないだろう。非アーケード志向のゲームほど、この傾向はなおさら強くなる。

レトロゲームのリイシューやアンソロジーも確かに盛んだが、あれは基本的に昔を懐かしむ人たち相手のビジネスだ。決して今のビデオゲームシーンの第一線ではない。
だがリメイクという形をとると話が違ってくる。それは進化に進化を重ねたシーンに現在進行系のゲームとして晒されることになるからだ。

アドベンチャーゲームの歴史に残る名作『MYST』がリメイクされると聞いたとき、まず最初に頭をよぎったのは上記の理由から来る不安だった。
『MYST』が当時のゲームシーンにもたらした影響やイノベーションは、やはりあの時代であったからこその部分が大きく、そうした背景を抜きにしてしまうと、ささやかなボリューム、あまりにも難解過ぎる謎解き、不親切な導線、ストーリー性の欠如など、このゲームが持っていたマイナスな部分ばかりが目立ってしまうような気がしたからだ。
事実ゼロ年代あたりに携帯機各種でリイシューされた『MYST』は、いずれも凡庸な評価だったと記憶している。

しかし今回はリイシューではなくリメイクという触れ込み。
MYST島の桟橋に放り出されたオレの前に広がる景色も、数十年のゲームの進化を経て途轍もなく細密さを増して綺麗になっている。
全体の風景や、この不思議な小島に点在する様々なオブジェクトのトータルデザインやアーキテクチャは、どれだけ時が経とうとちっとも古びていない。まるで古代遺跡のような普遍的な美しさがしっかりと存在している。

だけどあの時にMYST島の風景に感じたインパクトにはやっぱり及ばない。
旧版『MYST』のスクリーンショットなんかをいま改めて見てみると、思っていた以上の質素さを感じてしまったりするけれど、当時はあれに度肝を抜かれるくらい驚かされた。
あのクラスのコンピュータグラフィックスは他にも存在したけど、それがゲームというインタラクティブで生きた世界となって展開するのは、やはり特別なことであった。

『MYST』が衝撃的だったのは、それまで脈々と続いてきたグラフィカルアドベンチャーゲームの文法を断ち切った作品であったからだ。
ゆえに当時もこのゲームに対して否定的な評価は少なくなかった。曰く、絵が綺麗なだけ、ストーリー性がない、高尚っぽく装っている、ただパズルを解いてゆくだけ、なんか鼻につく、などなど。
ある意味それらの指摘はぜんぶ正しい。『MYST』が大好きなオレでさえも、なんか思わせぶりだけで構成されたようなゲームだなと思ったりもする。

だがその"思わせぶり"をギュギュッと凝縮したような小さな小さな『MYST』の世界は、まるで磨き抜かれた盆栽のような魅力に満ちている。
回りくどい謎解きに辟易させられながらも、それでもこの狭い世界に身を浸してあちこちを巡る行為は途轍もなく気持ちよかった。
『MYST』はその後シリーズ化されるが、その続編はいずれも一定のクオリティは保ってはいるものの、やはり初代のとことんシェイプされて小世界の美しさには及んでいない。

完全3DCG化され、その美しくもささやかな小世界を自在に巡れるようになったリメイク版『MYST』。
ウォーキングシミュレータなんて言葉が認知されつつある現在は、むしろこうしたタイプのゲームがストレートに受け入れられるキャパシティが、さらに広がっているのかもしれない。
新規のプレイヤーのリメイク版『MYST』に対する評価はちょっと気になるところではある。
だがそこでいかに程々の良作という評価を得られたとしても、例えるならセックス・ピストルズをいま初めて聴いた人が、時代的な革新性や衝撃を抜きにしてポップでノリのいいロックンロールとして受け入れてしまうような、老害チックのもどかしさをちょっぴり感じてしまうのであった。
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