この記事に含まれるtag :
アドベンチャーゲーム ミステリ

ウォルター・ヒルの1984年監督作品「ストリート・オブ・ファイヤー」。
マイケル・パレ演じる無頼の流れ者が、かつての恋人を拉致した暴走族と対決し、ヒロインを取り戻した後そのまま街を去ってゆく。
古典的な西部劇をそのまま現代社会に持ってきたシンプルなプロットの映画だが、これが幾多のマジックに包まれた奇跡のような傑作となった。
もう何十回と観たかもしれない、オレにとっても最上級のフェイバリットムービーだ。

この映画で暴走族のリーダーを演じていたのが、若かりし頃のウィレム・デフォー。
悪役以外は巡ってきそうもない爬虫類顔。粘着質の演技。そして魚市場のあんちゃんみたいな突飛なファッション。
「ストリート・オブ・ファイヤー」は肝心のヒーロー&ヒロインよりも脇役陣の方が強い印象を残す映画であったが、その中でもデフォーのインパクトは群を抜いていた。

それからもうこの一度観たら忘れられない顔を、幾度となくスクリーンで拝むこととなる。
「プラトーン」、奇才ジョン・ウォーターズの「クライ・ベイビー」「アメリカン・サイコ」「処刑人」そして「スパイダーマン」ではグリーン・ゴブリン役。
いずれも一筋縄ではいかない映画に強烈な役どころだ。
こうした癖の強い役者さんは実際には好人物と相場が決まっているが、しかしスクリーンを通してさんざん見てきた印象からすれば、少なくとも隣に住んでいて好ましい人物にはとても思えない。

そのウィレム・デフォーが毎回決まった時間に必ず家を訪問してくる。
もうそれだけで『Twelve Minutes』のループする時間が、のっぴきならない世界であることが理解できるだろう。
ジェームズ・マカヴォイが声を演じる主人公。愛する妻と二人で暮らすアパートでデザート食ったりダンスしたりといい雰囲気になってるところに「ピンポーン」とやって来るのが刑事を名乗るウィレム・デフォー。
あの粘着声で勝手な言いがかりをつけた挙げ句、訳もわからないうちに主人公は殴り殺されてしまう。

そして状況をまったく理解できないまま、なんの説明もなく戻されるのは家にちょうど帰宅した12分前の世界。
出迎えてくれる妻。デザート。ダンス。「ピンポーン」。デフォーまた来んのかよ! そして前回と同じ結末。
またもや戻される12分前。さすがに3回目ともなると厄災のようなデフォーの訪問が避けられないことは理解している。
「ピンポーン」。先手必勝。台所にあった包丁を掴んで不意をついて襲いかかってみたものの、考えてみりゃマカヴォイがデフォーに敵うわけがない。
あっさり殴り倒されて再び12分前の状況へ。

敵意むき出しのウィレム・デフォーが必ず決まった時間にやって来る悪夢のようなループ世界。
これをどうにかしなきゃいけないことは分かってるんだけど、1LDKのアパートにシンプルライフを気取る夫婦。限られたほんの少しのオブジェクトと行動の組み合わせでなんとか事態の打開を目論むも、なかなか光明が見えてこない
もう来ることは分かりきってるんだから、先手を打っていきなり緊急ダイヤルに電話をかけてみた。
あ、もしもし! 大変なんです! ウィレム・デフォーが家に押し入ってこようとしてるんです!
「分かりました。到着まで15分ほどお待ち下さい」
15分じゃ間に合わねえんだよ、12分以内に来いよ! もう助けてマイケル・パレ!!

永遠とも思われる時間のループ、永遠とも思われるルーチンの繰り返しを何度も重ねてるうちに、少しずつ明らかになる事の次第の輪郭。
そしてありとあらゆる試行錯誤の果てに、やっと迎えたハッピーエンド。デフォーも涙浮かべてお礼言いながら帰っていった。
これでやっと繰り返しの世界に終止符を打てた。さあ、スタッフロール、いつ流れてもいいですよ!
……なんてのはぬか喜び。エンドロールどころか、またもや放り出される12分前の世界。
あれで丸く収まったはずじゃねえのかよ! どうやったらこのループ世界から真に抜け出せるんだよ!
がっくりうなだれるマカヴォイと、同じくがっくりうなだれるオレ。ゲームの主人公とプレイヤーは、この上はない100%の感情シンクロナイゼーションを果たすのであった。

インターフェイスや操作性、そしてあまりにも難解で不明瞭なフラグの立て方などが目につく『Twelve Minutes』は、ゲームとしてはかなり不親切な部類に入る。
そして何よりも同じシチュエーション、同じ行動が延々と繰り返されるゲームコンセプトは、その不親切さの最たるものだ。この部分で大きく評価を分ける作品だろう。

だけど繰り返しの牢獄の中から手探りで既成事実を少しずつ動かし変えてゆく過程には静かなスリルが確かに存在する。
為すすべなく12分前に戻されて主人公が「一体どうしたらいいんだあ」と頭を抱えて崩れ落ちるとき、オレも同じように頭を抱えたくなりながら、そのうんざりとした気分の裏になんとも言えない楽しさを感じたりしたんだよね。
- 関連記事
-
- 【The Procession to Calvary】名画を弄ぶADV
- 【MYST】リメイク版ミスト
- 【Twelve Minutes】デフォーが定時にやって来る
- 【Maid of Sker】メイド・オブ・スカー
- 【art of rally】アート・オブ・ラリー
この記事に含まれるtag : アドベンチャーゲーム ミステリ
(記事編集) https://bonkura360.blog.fc2.com/blog-entry-3037.html
2021/09/15 | Comment (2) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |デフォー様、ケネス・ブラナー版オリエント急行殺人事件にも出ておられたんですね。登場するだけで場の空気が変わるような癖の強い俳優さんは尊い。タイムリープは上手くきまると名作に!もうずっと爽やかな気候を味わえない様な気がしてくる長雨タイムリープ。超絶不快な蒸し暑さか、肌寒い雨模様の二択しかない。台風被害がありませんように。
関西はここにきて台風直撃が避けられそうもなくて大変ですね。
どうかご息災に。台風のループがないことを祈っています。
コメント:を投稿する 記事: 【Twelve Minutes】デフォーが定時にやって来る
お気軽にコメント:をぞうぞ。非公開 (管理人のみ閲覧可能なコメント:) にしたい場合には、ロック にチェックを入れてください。
Comment