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2020/06/13 (土) カテゴリー: 3DO

うちのカーナビは起ち上げるたびに「今日は**の日です」といちいち教えてくれるおせっかいな機能がついているのだが、そんな"何の日"版林家ペーと化しているカーナビさんによると、今日6月13日は「鉄人の日」。
まぁなんとなく見当はついたが、それでも一応調べてみると、やはり鉄人の異名をとった元広島東洋カープの衣笠祥雄選手が連続出場の世界記録を達成した日にちなんでのことらしい。
しかし野球から離れれば、それぞれのジャンルに於いて鉄人の定義はおのずと違ってくる。プロレスファンにはルー・テーズこそが鉄人だろうし、自転車好きにとってはランス・アームストロングだった(ここは過去形)であろう。
道場六三郎や陳建一あたりも鉄人であることは間違いないし、社長の超高機能スーツも直訳すれば鉄人だ。
そして3DOユーザーにとっては、鉄人と言われればこの3DO初期タイトルに他ならないのであった。

これをリリースしたシナジー幾何学は90年代に主にマルチメディアCD-ROMを中心に開発していたメーカー。
まだWindows95すら発売されていなかった時代から、当時としては先鋭的なCGアートにインタラクティブ性をもたせたソフトで異彩を放っていた。
代表作は後にプレイステーションにも移植された名作『GADGET』。
そんなシナジー幾何学とマルチメディアを旗頭とする3DOの接近は必然だったのか、3DO REAL本体発売からわずか半月後、この『鉄人』は早々と登場したのであった。

ゲームをスタートするといきなり現れるのが実写ムービーの怪優嶋田久作演じるマッドサイエンティスト。
あのいまいち明瞭でない語り口で、不細工な機械の体に変貌させられてしまった現在のシチュエーションを厳かに告げてくれる。
このシチュエーションがまたさっぱり要領を得ないのだが、まあこの曖昧模糊とした環境は、インダストリアルな音楽やビジュアルデザインと並んでシナジー幾何学のお家芸みたいなもの。少なくとも『GADGET』はそんなシチュエーションの中を彷徨うのが奇妙に心地よいソフトだった。
だがCGアートにほのかなインタラクティブ性を持たせただけの『GADGET』と違って、この『鉄人』は明確にアクションゲームとしての体裁を志向した作品。
しかしマルチメディアというある意味都合のいい言葉から離れて、より純粋なゲームに近寄れば近寄るほど、シナジー幾何学の弱点は露呈していくのであった。

まだファーストパーソンシューティングという言葉も生まれていない頃。『クライムクラッカーズ』や『キリーク・ザ・ブラッド』など、国産のプロトFPSには『DOOM』をちょっと変な形で解釈してしまったようなゲームがやたらと目立った。
むしろ3DダンジョンRPGからの影響の方が顕著だったかもしれない、『DOOM』にあった醍醐味がばっさりと欠如していたこれらの国産プロトFPS。『鉄人』もその中の一つだ。
そして元々がゲームらしいゲームを得手としていないシナジー幾何学。アクションゲームとしてのレスポンスは最悪もいいところで、画面移動は常にガクガクする始末。
これにインダストリアルな質感の迷宮を彷徨うバーチャル悪夢のような本来のコンセプトが逆シナジー効果をもたらして、終始3D酔いに悩まされ続けた。

アクションロールプレイングムービーという自らに冠したジャンル名が、マルチメディア的なCGアートに強引に3Dシューティングを折衷したこのゲームの特異性と、結局はまとまりがつかなかったそのコンセプトを物語っているかもしれない。
そして3DOがマルチメディアを高らかに標榜して世に出た90年代中期は、実はマルチメディアの言葉のマジック自体が下り坂に入っていた時期だったのもまた事実で、シナジー幾何学は本作のリメイクである『Tetsujin RETURNS』を出した後、その役割を終えたかのように解散へと向かったのだった。
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