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2017/12/12 (火) カテゴリー: XBOX 360

有名になるのはいいものだ。
今日も街雀たちがオレの英雄を取り囲んできゃあきゃあ囃し立てる。きっとジャスティン・ビーバーは毎日こんな感じなのだ。
もっともビーバーにだって崇拝者と同じくらいのアンチがいるだろうが、そんなもん彼には英雄にとっての山賊やワスプ程度の存在にしか見えていないのだろう。
「あれがあのチキンチェイサーよ!」「素敵!」
その称号も最初はどうかと思ったが、こうも浸透するとおいそれと変えられる雰囲気ではなくなってくる。
"おかわり君"だって本人の実力で、今では畏怖と敬意のこもった呼び名となっているのだ。急に"獅子砲"だのなんだのと呼ばれたって、きっと本人だって困るに違いない。

酒場に入れば入ったであっという間にみんなの視線が英雄に向く。
なにせオレの英雄は、アルビオンのあちらこちらで人助けと善行を繰り返してきた高潔な男。
カルマのメーターは善の方にだだ傾き。いつもは居丈高な衛兵だって、英雄相手には態度を変える。
あれはガキの頃だっただろうか。オークベールの村で口止め料を懐に入れながら旦那の浮気を女房にチクったことを、衛兵に「物事の善悪をちゃんと見極めんといかんぞ!」と怒られて以来、オレの英雄はモラルのある行いを常に意識するようになった。
人目のつくようなところでひけらかすのがモラル。人の目の届かないところでこっそり行うののがアンモラル。

なに、都合がいいことを言うな? ツイッターやSNSなんかで、てめえの感情の好悪を世間一般のモラルにすり替えて吐き出す奴らの方が、よっぽど自己本位だっつうの。オレの英雄なんかそれに比べれば可愛いもんだ。
ハートマークを頭上に光らせながらつきまとう独身女や人妻を振り切って(もちろんどれを後腐れのない現地妻にするか、心の中で物色していることは言うまでもない)、オレの英雄は町外れの民家に駆け込んだ。
主のいない家の中には本棚とタンス。そういえばバウアーストーンの学校が本の寄贈を求めていたっけな。
そう、これは善行善行。自分に言い聞かせながらオレの英雄は本棚をごそごそと勝手に漁る。
人の気配。振り返ると戸口から英雄の一部始終をじっと眺める衛兵の姿が。
英雄は衛兵に歩み寄りいくばくかのカネを握らす。「どうかこれで穏便に」
こうしてオレの英雄の善なる名声は守られたのだった。

メガテンの傍流だの『テネレッツァ』だのとイレギュラーばかりが続いていた初代XboxのRPG事情。
『Fable』はそんな煮え切らない状況に活を入れるべく登場した、ハードホルダーによる大作RPG。
そしてこの頃はピーター・モリニューの名にまだまだ神通力があった時期。
「モラリティを含む圧倒的な自由度」
モリニューの発売前コメントに期待は高まるも、その一方で「あのおっさんの言うことは話半分に受けといた方がいいな」と、彼との付き合い方をみんながなんとなくわきまえてきた時期もであった。

システムにより設けられたのは善悪二元論のカルマステータス。
善行を積み重ねれば評判はあがり民衆からは敬意をもって迎えられ、逆に悪行を重ねれば人々から忌み嫌われ恐れられる存在となる。
ゲーム中にそれなりのアクセントとはなるが、それ自体は非常に淡白な要素だ。
結局のところは高潔な英雄が邪悪の目覚めを食い止めた。あるいは悪しき英雄がさらなる悪を凌駕して封じ込めた、なんてどっちもどっちのありきたりな話に落ち着くのであろう。

寓話は教訓的なことを伝えるのに都合の悪いエピソード、その時代その時代のモラルにそぐわなくなった話なんかを、はしょったり改変しながら後世に伝えられてきた。
だがオレは高潔な英雄が邪悪に打ち勝った話の、伝えられなかった細部の細部までも知っている。
英雄はカネに意地汚く不労所得の確立に精を出し、女と見れば見境なしに重婚に次ぐ重婚を繰り返してきた。そのうちの半分はほったらかしだ。
街道で商人を追い剥ぎから救ったりもしたが、その影で旅人をスコーム礼拝堂に生贄に捧げたりもしてきた。

善も悪も結局はその場その人その時代の都合によって移ろい取り繕われる。
パッケージアートに映る善なる英雄と悪なる英雄。しかしほとんどのプレイヤーはそのどちらにもいない。そこには映らないポジションに身を置く。
モリニューがプレイヤーに与えてくれたのは、カルマやモラルの行間に皮肉屋ブラックユーモアを見出す小さな小さな自由。
その象徴とも言えるのが、マザー・テレサですらそのケツを蹴っ飛ばさずにはいられない、町中を無防備にウロウロするあのニワトリどもだ。
「彼がチキンチェイサーだ!」「素晴らしい!」「きゃあ!」
そう、オレの英雄は泣く子も黙るチキンチェイサー。実はあんまり良い奴じゃないが、とりあえずナイスガイってことで通しておいてくれ。(ぼかっ!)「くわっくわっけっこっこっこ!!!?」
<Xbox One互換対応タイトル>
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