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オープンワールド アサシンクリード

12世紀末のダマスカスを、アッカを、エルサレムを、見るからに挙動不審なストレンジャーが闊歩する。
本人は群衆に紛れるソーシャルステルスなどと嘯いてはいるが、周りからはちっとも忍んでいるように見えないのは、街にたむろする乞食たちが、他には目もくれず一直線に、この男の元を目指してくることからも明らかだ。
何でそうなってしまうかは、このアルタイルという男が、慎み深さや感情の抑制力が欠如した、アサシンにはまったく向いていない性格だからに他ならない。
その上で、衆人環視の中、そこらの建物によじ登ったり、屋根のてっぺんから干し草を積んだ荷車にダイブしたりなんて真似を繰り返していれば、このおかしな異邦人のことは、半日もすればたちまち街中の話題になっているだろう。

こんな人目を避けて行動することに根本から向いていない男を主人公に据えたゲームを、『ステルスアクションに分類して、『天誅』や『ベルベットアサシン』と並べて評価してしまうのは、そりゃ何かが基本的に間違っている。
アルタイルさんがアサシンなのは、この世を忍ぶ仮の姿。
本当のアルタイルさんは、遥か現代から時空を超えてこの街にやって来た、傍若無人でひたすら迷惑な歴史観光客でしかないのだから。

UBIにとって豊潤な金鉱となるこのシリーズも、その第1作は後に整調されていく諸要素が、まだ荒削りのまま噛み合わずに散在する、底抜け超大作一歩手前であった。
その中にあってこちらの興味を惹きつけたのは、事前のプロモーションでさんざん喧伝されていたソーシャルステルスやフリーランニングではなく、無責任な歴史観光体験だ。
アルタイルがアサシンだという設定は、その作り込まれた歴史観光地を自由自在に闊歩させ、あらゆる角度から眺めさせるための方便みたいなもの。
金持ちから貧乏人まで、あらゆる階層の人々が狭い路地裏に溢れかえる、活気に満ちた小世界を、人々に紛れ込んで歩くも良し、屋根の上からその喧騒をぼんやりと眺めるも良し。
暗殺はその合間に果たさなくちゃいけない、ちょっとした義務みたいなものだ。

だいたいこのゲームの暗殺ターゲットは、どいつもこいつも妙に醒めきった連中ばかりで、いざ死に際のときとなっても、完全に悟りきっている始末だから、殺し甲斐がないったらありゃしない。
ちょっとは「な、何が望みだ、金か? 金ならやるぞ。だから見逃してくれ!」なんて、いかにも暗殺ターゲットらしい命乞いをしても、罰は当たらないはずだぞ。

そりゃあオレだって、たまにはアサシンらしく人目を忍んで警戒区域に潜入し、高所からターゲットに舞い降りナイフ一閃鮮やかに暗殺を実行して、そのまま嵐のようにその場を去るような真似にチャレンジしてはみた。
しかしその目論見は、目測を誤って露天の屋根に飛び降りてしまったり、変なところでフリーランニングが発動して思い切り目立ってしまったり、"気の毒な人"にソーシャルステルスを台無しにされたりして(気の毒な人だと思ってりゃ調子に乗りやがって!)、結局は白昼の街中で剣を振り回して大暴れする、まるで遊女に振られて吉原で20人斬りの大暴れをした浪人者みたいな騒ぎになってしまうのだ。
そしてそんなついカッとなった大量殺人者みたいな開き直りで、たいていのシチュエーションはどうにかなってしまうのだから、何とも困った話である。

この『アサシン クリード』は、そんな斬った張ったの大騒ぎを始め、露天をぶっ壊したり、名所旧跡によじ登ったり、人を突き飛ばして難癖つけたりの、まるで不良観光客のような振る舞いを、旅の恥はかき捨てとばかりに満喫できるゲーム。
街の人々にとっては、何とも傍迷惑極まりないストレンジャーだが、どうせならストーリーに絡むこと以外は、迷惑を被る街の人々のセリフは、吹き替えも字幕も一切入れない原語のままであって欲しかった。
例え建物をよじ登っている時でも、「あれ、下の方でどうやら俺のことをなんか言ってるようだな」程度に捉えられれば、こちらとしても見知らぬ街を訪れた異邦人の気分が、より一層味わえたことだろう。

この街にしばらく腰を落ち着けた間に、迷惑な不良観光客の噂はたちまち街中に広がり、今やちょっと突飛な動作をしただけで、たちまち衛兵が駆け寄ってくるまでになってしまった。ちょっと壁に貼り付いて登っただけだって言うのに。
わらわらと寄せ集まってきて、わけの分からない現地語を口々に叫びながら、こちらを制圧しようとしてくる衛兵たちを相手に、「オレが何をしたと言うんだぁ!」と大暴れしていると、ちょっと昔に皇居の石垣に全裸でよじ登って大騒ぎの末に拘束された、あのスキンヘッドのデブ白人とアルタイルの姿がダブって見えてくる。
考えてみれば、アルタイルとあのデブ白人のやってることは、基本的に大きな違いはまったくないもんな。
ああ見えてあのデブ、もしかしたらテンプル騎士団の陰謀に抗う者だったのかもしれないぞ?

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2017/06/06 | Comment (2) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |60年代の時間SFの傑作が新訳で出ました。道徳心なぞ鼻紙1枚程も持ち合わせない時間観光局のガイド達、無責任な観光客達!ゴルゴダの丘等の歴史的人気ポイントには、時間観光客がドンドン滞留するという考え方が面白い。しかし常に危険と隣り合わせで主人公の運命は・・・。今なら、アサクリやれば良いんじゃね?となりますよね。安心安全!私の腐った眼には暗殺対象をいまわの際にかき抱いて光に包まれるシーン、ラブシーンみたいに見えます。
おお、時間線を遡ってですよね? 新訳出たんだ!
アサクリは遺伝子追体験シミュレータって建前にしちゃったんで、歴史体験は味わえても歴史への直接的な介入ができないのが、ちょっと設定的にもったいないですね。
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