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2016/12/13 (火) カテゴリー: PS1

時はバブルの萌芽からその終焉にかけて、平日の朝っぱらにはその空気に相応しい物欲が煮えたぎっていた。
それはいつも邪心のカケラもなさそうな初老の男の、緊張感のない掛け声から始まっていた。
「100万円クイズハンタ~~~」
画面に並ぶのは燃え盛る物欲をぎこちない笑顔でオブラートした一般参加者たち。
そしてテレビの前の我々は、彼らがクイズの回答と共に高額商品をやり取りするその様に、「そんな簡単なクイズに答えるだけで、それを貰えちゃうのかよ」と、嫉妬と羨望に悶々とするのであった。

人間の欲を一箇所に押し込めて蠱毒を始めたような世紀末光景。
それが平和なはずの朝のお茶の間に連日流れていたのだから、バブルというのはつくづく恐ろしい時代だ。
「オレもいつかこの番組に出場し、チョロいクイズに答えて高額商品を根こそぎ家に持ち帰ってやる」
仮病で学校をサボった午前中、テレビでこの番組をぼんやりと眺めては(なにせこの時間帯は他に観るものがない)、いつもそんな野望に燃えていたのだが、残念ながらオレが大人になると同時に、この番組はバブルの恩恵と共に目の前から煙も残さず消え去ってしまった。

その幻のクイズ番組が唐突に復活したのはプレイステーション。
普通この手のタイアップゲームは、番組が現役の間にリリースされるのが常道だが、ゲーム版『100万円クイズハンター』がリリースされたのは、番組終了から数年経過後という異例のパターン。
懐古趣味というよりは、むしろバブルの匂いだけを嗅がされてそのまま永遠にお預けを食った世代の無念を晴らすためのようなソフトであろう。
平日朝の物欲大祭りを、今度こそ雰囲気だけでも味わってやる!

ゲームの構成や体裁は、ほぼオリジナルの番組そのまま。そして合間にはご丁寧にCMタイム風の演出まで入っていたりする。
そして番組を仕切るのはもちろん柳生博。
人間の業とはまったく無縁そうな佇まいで一大欲得ショーを中和する。デフォルメされた等身で、その気品の高い笑顔も当社比3倍増しだ。

だがこの番組の真の主役は柳生さんではなく、出題パネルの裏に隠されためくるめく高額商品。
隣に座る有象無象どもを押し抜けて、なんとしてもこれをすべて持ち帰り、ついでにハワイ旅行もゲットしてやる。
「(ぴんぽーん)もみじ!」「正解です! バナナ1年分、5000円!」「要らんわあ、そんなもん!!!!!!」
実際に貰えないことが分かっているのにここまで激昂してしまうのは、こちらに番組の喜怒哀楽がすっかり刷り込まれているからなのだろう。

普通のクイズが行われる前半は単なる前哨戦。それまでに各々がキープした商品を奪い合うハンターチャンスからが、この番組の本番。
いいや、奪うんじゃない。これはお前がオレを出し抜いて掠め取った商品を、オレの下に戻しているだけの話だからな。
そんな意気込みも虚しく制される回答。CPUプレイヤーが手にするハンターチャンス。やめろ! オレの高級スーツ27万円相当だけは、頼むからそっとしておいてくれ!
「青の高級スーツが緑の方に移ります」

今すぐ解答席を飛び越えて緑のヤロウの首を絞めに行きたいところだが、それを押しとどめているのは、これが全国放送だという認識と、あとはコントローラのどのボタンを押してもそんなアクションが出てこないだけの話である。
100万円クイズハンターを知らない世代にとっては、何の変哲もないクイズ番組タイアップゲーム。
しかし直撃世代にとっては、本質である物欲ボクシング部分も忠実に再現した良質の番組シミュレーター。
あの平日の朝、テレビの前で悶々とこじらせていた強欲の行き場がここにはある。足りないのは実際に持ち帰れる商品とハワイ旅行だけだ。
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