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ボクシング

「ジョー、いよいよウルフ戦だ。わしが教えたクロスカウンターのタイミングを、決して忘れるんじゃねえぞぉ」
「おっと、おっつぁん。生憎とオレにはそんな肉を斬らせて骨を断つみてえな、一か八かの戦法は必要ねえぜ」
「なんだとぉ? 舐めた事をぬかしてるんじゃねえ! ウルフ金串はそんなに甘い相手じゃねえぞ」
「だいたいよぉ、ウルフがオレのクロスカウンター躱してダブルクロスを打ってくることが分かってるのに、なんでみすみすクロスを打たなくちゃなんねえんだよ」
「お、おめえってヤツはぁ……」

「そんな大博打よりもっと確実な戦法があるぜ。ジャブの牽制でガードを上げさせてすかさずボディ。ジャブ、ジャブ、ボディをぺちぺち、ジャブ、ジャブ、ボディをぺちぺち。なぁに見栄えは多少悪いが、この堅実なボクシングをこつこつ繰り返せば倒せない相手はいないって。ほうれ、ウルフの旦那も堪らず膝から崩れ落ちなすった。へへっ、どうしたんだい、おっつぁんよぉ。教え子の勝利だぜ。ちったぁ嬉しそうな顔したらどうなんだい」
「おめえみてえなジョーに、ウルフと闘う資格なんざ断じてねえぇぇ!」
「そんな事言ったって、闘って勝っちまったもんは仕方ねえだろ」
「ウルフは顎が砕けて再起不能になっちまったって言うのに、おめえって奴はぁぁ!」
「おいおい、そいつは冤罪だぜ。俺はウルフの腹だけしか殴ってねえ」

ボクシングとは、泪橋を逆に渡るためのもの。
PS2コントローラを手に追体験するのは、矢吹丈がまっ白に燃えつきるまでの、言わずと知れたあの一連の物語。
公園での鬼姫会との喧嘩に始まって、鑑別所での西との対決から、ハリマオ戦を前にしてのゴロマキ権藤とのスパーリングなど、ボクシング以外の対決もフォローした試合パート。
鑑別所、後楽園ホール、丹下ジム、蔵前国技館、後楽園球場、いずれも丁寧に作り込まれた試合会場の数々。
原作に忠実に、試合によって変わるセコンドの顔ぶれ(西の代わりに紀ちゃんが加わっていたり、後半は河野が勤めていたり、ホセ戦ではホームレスバージョンのカーロスの姿もちゃんとある)。

そしてジョー役の声優は、あおい輝彦ご本人。
なにせ「あしたのジョー」の声優さんは、今では物故者や引退者が多かったり、或いは気軽に起用できない大御所さんになっていたりと、オリジナルのメンバーを揃えるのが実質不可能になっている。
こちらとしても、オリジナル声優に近いメンバーを揃えてくれ、なんて無理難題は言いはしないが、だけどジョー=あおい輝彦だけは、そうそう譲れるものではない。
現在のあおい輝彦の声が、完全にミドルエイジ男性のそれになっていて、このゲーム中のジョーの声が、まるで"ジョーの物真似をする助さん"になっていたとしても、そんなことは些細な問題だ。

そしてこのゲームのメインは、「あしたのジョー」のストーリーを追っていくモードなのだが、必然的にこれはダイジェスト進行を余儀なくされる。
だけど本来「あしたのジョー」に疎かにできるキャラクター、はしょれるエピソードなどは、一つとして存在していない。
これをダイジェストに収めるためには、それこそ力石の減量なみの身を削ぐ思いをしなければならないのだが、このPS2版あしたのジョーは、押さえるべきエピソードをきちんと収めてくれている。
マンモス西のうどん隠れ食いに、ウルフと権堂のエピソード、草拳闘ドサにカーロスの狼藉、一見飛ばしても問題なさそうな「愛弟子の滝川ををハリマオにぶっ壊された横倉会長の白木葉子への恨み節」なども漏らさず入っている(これは白木葉子のドン・キングを凌駕する悪魔のプロモーターぶりが浮き彫りになる重要なエピソードだとオレは思う)。

嗚呼しかし、ゲームプレイヤーにとってはまっ白に燃えつきるよりも大切なことがある。それはゲームオーバーの回避だ。
そんなジョーと正反対の生き様を歩む者たちにとって、牽制のジャブとHP削りのボディだけでホセ・メンドーサをも倒せてしまうゲームバランスは、まるでマンモス西の前に差し出された熱々のうどんみたいなものなのであった。
ウルフを、力石を、タイガー尾崎を、ウスマン・ソムキットを、カーロスを、金竜飛を、ビナン・サラワクを、そしてホセを相手に、すべてジャブ、ジャブ、密着してボディ、ジャブ、ジャブ、密着してボディの、けれんのまったくないボクシングで闘い抜くジョー。
石橋を叩いて渡るジョー、小さな事からこつこつがモットーのジョー。そんなの断じてジョーじゃねえ!

梶原先生が聞いたらホステスをリフトアップしてブチ切れそうな情けないジョーっぷりにも関わらず、ウルフは再起不能になるわ、力石は死ぬわ、カーロスはあんなになっちゃうわと、ストーリーは例の調子で通常進行するもんだから、コントローラを握るこちらも自然と気まずくなってくる。
だから力石よぉ、腹しか殴ってないのに死ぬこたぁねえだろう。
だが分かっている。悪いのはこのゲームではなく、そんな戦法、そんな生き方を自らの意志で選択しているオレだ。
梶原先生、ちば先生、ごめんなさい。力石、カーロス、本当にすまねえ。そしてジョー、ごめんよ。

クライマックスのホセ・メンドーサ戦。鬼姫会のちんぴらが、草拳闘の稲葉が、ゴロマキ権藤とその子分たちが、客席から熱い視線をオレのジョーに送っている。
「おまえのクロスカウンターを見せてくれ!」
声を枯らして叫ぶウルフの姿もある。ウルフよ、すまねえ。ゲームクリアを目の前にして、そんな危険を冒すわけにはいかねえんだ。
ジャブ、ジャブ、ボディをぺちぺち、ジャブ、ジャブ、ボディをぺちぺち。引退したら白木葉子に養ってもらって左うちわで暮らすんだ。
ああ、オレのジョーは、まっ白な灰どころかマッチの燃えさしにすら成れなかったみたいだぜ。
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2015/08/20 | Comment (2) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |ゲームクリアのためなら、コツコツと。
人生もそうですよね。毎月保険料払ってクーポン券握りしめて特売に行列し。
戦後70年が過ぎジョーの世界も遠くなりました。焼け跡のバラックやスラム街なんて今じゃクレージージャーニーのネタでしかないもんな。
あしたのジョーも、もはや古典落語みたいに注釈が必要となってきそうなご時世、もし梶原先生がご存命だったら、今の時代にどんな反応を見せていたか興味深いですよね。
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