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ミステリ アドベンチャーゲーム
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2014/10/22 (水) カテゴリー: セガサターン

アームチェアディティクティブ(安楽椅子探偵)。人様が脚動して稼いできた情報をもとにご高説を垂れ流す結構なご身分だが、こんなダイナミズムに乏しい存在が、昔からミステリ作家に妙に重宝されるのは、その立場故に並外れて聡明な名探偵というキャラクターをつけやすいのも理由の一つだろう。
人の褌で相撲をとって賢そうなことを披露して悦に入る人物。むしろネット時代に親和性の高そうなキャラクターだが、ネット住民のほとんどが普段はドラマチックとは無縁な凡々たる人生を送っているように、引きこもりの安楽椅子探偵は、宿命的にダイナミズムのある物語を構築しづらい因果を背負っている。

シンキングラビットと言えば、『鍵穴殺人事件』や『道化師殺人事件』で、黎明期の国内パソコンゲームにミステリアドベンチャーというジャンルを確立させた老舗。
そのかってのオピニオンリーダーがプレステサターン時代に入って放った久々の純新作は、そのアームチェアディティクティブスタイルだった。

80年代のシンキングラビット作品は、古きよきコマンド入力システムが定番だったが、まさか90年代にそんな悠長なことをやってる暇はない。
ならばと同社が攻めの姿勢で送り出したのはビデオチェックシステム。
犯罪心理学者南方珀堂の下に送られてきた事件に関連するビデオテープをチェックして、映像の中に気になるポイントがあったらビデオを一時停止してそれを指摘し、その積み重ねで事件を解決に導く。
ゲーム中のほとんどがビデオテープの再生画面で構成された、なんとも斬新なコンセプトだ。
シンキングラビットの攻めの姿勢はまだまだ続く。
80年代の同社作品は、当時としては卓越した壮麗なグラフィックが売りの一つであったが、『南方珀堂登場』で用いられたのは、美麗CGとは一転した粘土人形による寸劇。

この味のあるビジュアルと、他にあまり類を見ないビデオチェックシステムで、表面的には斬新なコンセプトを擁したように見えた『南方珀堂登場』。
80年代以来の同社作品ファンにとっては、発売前から大いに期待を抱いたのだったが、蓋を開けてみればそれらはすべて消化不良を起こしていたのであった。
クレイアニメ未満の粘土人形寸劇は、動きにまったく乏しくほとんど紙芝居状態。
いくら事件の証拠映像ビデオという触れ込みであっても、実質紙芝居であればそれはもう静止画アドベンチャーゲームと変わりはない。

しかも探偵の下に送られてくる事件データをビデオに限定してしまったがために、プレイヤーの前に提示される情報が極端に断片的になって、事件の全体像どころか経緯さえもまったく把握できない始末。
2本収録されたシナリオのうち、最初の1本は「テレビ中継の中でマジシャンが実行した人体消失の完全犯罪が、やがて数十年前に北陸の寒村に存在した古く後ろ暗い因習にリンクする」という、実に食指のそそられる大掛かりなものだが、そのバックグラウンドがわずか数本の総時間30分にも満たないビデオテープに凝縮されると、もうぶつ切りどころの騒ぎではなく、案の定事件は南方珀堂が勝手な講釈を垂れ流した挙句、最初の事件のトリックや経緯がまったく解明されない最悪の「そうです、私がやりました」エンドを迎えるのであった。

南方珀堂には助手格である二人のゼミ生が付き従っているのだが、ビデオでポイントを指摘するごとに、この二人が延々とおっ始める本件とまったく関係ない漫才みたいなやりとりも問題で、"動きのまったくないムービー"のバックに、このしょうもない掛け合いが長々と続く様子は、もうほとんど悪夢である。

本来は斬新で魅力あるはずだったコンセプトを、作った側がまったく咀嚼できないまま出されてしまった印象のあるこのゲーム。
「登場」と威勢だけはいいが、後に続かず出てくるだけで終わってしまった間抜けさが、南方珀堂というゲーム探偵の評価をすべて物語っているのではないだろうか。
すべてはアームチェアディティクティブなんて横着をしようとした報いである。
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