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2011/08/01 (月) カテゴリー: 映画・DVD

若山富三郎・勝新太郎兄弟の思い出を綴った山城新伍の名著「おこりんぼ さびしんぼ」の中で、著者は「ブラック・レイン」で道頓堀の親分を演じた若山の演技を、アメリカ人に合わせたモノマネで、あまりいい芝居ではないと評しています。大阪のヤクザであるのなら、もっと泥臭く日本人らしく演じた方が良かったのではないか。ハリウッドでは日本人に純粋な日本人を求めるのだ、と。
「英語の片言を覚えただけで、簡単にしゃべっているように見せかけることができる。間がいい。息がいい。勘がいい。なりきることができる。それが逆によくないこともあったのだ」
もちろんそれが良い方に出るケースもあった。それは山城新伍自身が一番よく知っていることでしょう。
何たってその映画で山城は、若山と兄弟の役を演じているのです。
若山富三郎、渡辺文雄、山城新伍の3人が、「英語と片言の日本語しか喋れない」日系アメリカ人の3兄弟を演じた怪作「舶来仁義 カポネの舎弟」がそれです。

アル・カポネの元でキャリアを積んだ日系人のギャング3兄弟(オープニングでは長兄の若山が、"聖バレンタインデーの虐殺"に関わっていたことが示唆される)が、かつて祖父が世話になった日本の任侠一家の助っ人として日本を訪れるというストーリー。
なにせ若山たちは日系アメリカ人である。日本語はネイティブではないという設定。
よって劇中で若山ら3人が喋る言葉は、全て片言の日本語とインチキな英語のちゃんぽん。もっとも若山先生のそれは一番怪しく、早口でまくしたてるシーンなどでは、時折思い切り普通の日本語になっていたりしますが、とにかく最初から最後までこの3人が藤村有弘状態(特に若山先生は、「Oh!」と言って肩をすくめればアメリカ人だと思い込んでる節がある)なので、観ているこちらは頭がくらくらしてきます。

しかもこの映画は、任侠映画ではなく、ディーン・マーティンのマット・ヘルムものみたいな荒唐無稽無国籍スパイ活劇が、そのベースとなっているので、デタラメぶりにもさらに拍車がかかります。
3人に絡んでくる峰不二子ポジションの美女は、実はFBIのエージェント(エリオット・ネスの孫娘という設定)。演じているグラシェラという女優さんは、外国人俳優なので、その日本語はナチュラルな片言。
このナチュラル片言と、若山先生たちのインチキ片言が絡み合う芝居は、もうそれはカオスの一歩手前で、何について話しているのかさっぱり分からなくなることもしばしば。

若山一家の一員である"地獄大使"潮健児が、スキンヘッドの不気味な殺し屋を怪演。山城がたらしこむヤクザの情婦は、なんと青山ミチ。そしてラスボスは安部徹。
その安部徹の下に殴り込みをかけるクライマックスでは、3人とも着流し姿になって結局東映任侠映画に戻ってしまうのですが、この殴り込みに向かう道中のやり取りが秀逸。
「ミー、カッコイイカ? アイアムア、ミスター・コージ・ツルタネ(若山)」「アイムア、ケン・タカクラ(渡辺)」「ジャア、ミーハダレヨ?(山城)」「オー、ユーハ、トミサブロー・ワカヤマヨ(若山)」「オー! アレダメヨ! アレ、ガクットカクサガルヨ! ソレジャミーカワイソウヨ!(山城)」「ホワーイ!? ビッグスター!!(若山)」「ホントかなぁ? 眉唾だよ(山城)」

なんか、カットがかかった後、「新伍! それどういうこっちゃい!」「いや、違いますよ。台本ですよ。僕は読んだだけですよ」「台本に書いてようが、言ったのはお前やないか!」なんてやり取りが目に浮かぶようなんですけど。
しかし、そんな3人のアメリカ人なりきりぶりも虚しく、いざ殴り込みが始まると、3人とも堂の入った殺陣をうっかり披露してしまい、とてもじゃないけど日本刀を初めて手にしたアメリカ人には見えなくなってしまうのでした。
後に鈴木則文らが確立する東映荒唐無稽路線の元祖とでも言うべき、でたらめ極まりない作品。DVD化を心の底から希望します。
こんな無茶苦茶な映画がほいほい作られて、それに若山富三郎のような大看板が出演してノリノリの怪演を披露してしまう、邦画がまだまだエネルギッシュだった時代が本当に羨ましいですね。
(記事編集) https://bonkura360.blog.fc2.com/blog-entry-17.html
2011/08/01 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |コメント:を投稿する 記事: 映画【舶来仁義 カポネの舎弟】
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