- 【Arcade Paradise】アーケードパラダイス [2023/07/21]
- 【Arkanoid Eternal Battle】アルカノイド エターナルバトル [2023/07/28]
- 【Road 96】名もなきモブたち [2023/07/31]
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2023/07/21 (金) カテゴリー: XBOX Series X|S

まだ20そこそこの頃、古本屋の仕事に憧れたことがある。
カビ臭い本に囲まれたその奥で一日中暇そうに佇んでいるその様子が、なんとも気楽そうに映ったからだが、いざい実際にバイトしてみると重い本の束をひたすらあっちにこっちに運ぶ肉体労働の連続で、アテが思い切り外れたものだった。

暇で楽そうに見えた仕事といえばゲームセンターの店員もそうだ。
制服をきっちり着込んだチェーン店なんかではない。
その昔によくあった喫茶店やコインランドリーが「儲かりそうだから」と安易な理由で転身したような小規模なゲーセンだ。
鍵の束を腰に下げてカウンターの奥で暇を潰し、時折コインの詰まりを直したり灰皿を片付けたりゲームを熱も入れずプレイしながら終業時間を待つ。
労働している大義名分とボヘミアンの両立。ああ、なんと素晴らしい!

『Arcade Paradise』はまさにそんなゲーム。
ローカル実業家である父親から小汚いコインランドリーを任された放蕩娘が、ランドリーとその奥のゲーセンコーナーを向上心乏しく運営していく。
ゲームセンター経営シムともレトロゲーム回顧ものとも明らかに違う、上昇志向があんまり無い人の仮初めの職業シミュレーターとでも呼ぶべき作品だ。

吹けば飛ぶようなコインランドリーだが、それでも働いている世間体は立つ。
眠い目をこすりながら出勤して、まず最初は店内の掃除。
その後は散発的に登場する洗濯物を洗濯機や乾燥機に放り込んで、それが仕上がる時間をぼーっと待つ。
店の奥のアーケードゲームコーナーを拡張したり筐体の数を増やしたりするのが一応の導線とはなっているが、こことてドライブインなんかにやる気なく置かれたゲーム筐体に毛が生えた程度の存在だ。

「オレの理想のゲーセンを作るぞ!」的なマニアな価値観とはおよそ程遠い。
むしろ登場するクローンゲームのあからさまな模倣性やいい加減な時代性などは、アーケードマニアの眉をひそめさせるかもしれない。
ランドリー仕事の合間にアーケード筐体を遊ぶのも程々だ。ぶっちゃけそんなに熱を入れてプレイするほど面白いものはない。

だから洗濯物が仕上がる間は、テレビ画面のこちら側で実際にスマホをいじったり雑誌をぱらぱらとめくったりして時間を潰すのがメインとなる。
ああ、これって昔憧れた適度に暇そうで責任もあんまり無さそうな仕事!
そして終業時間が近づけば両替機や筐体から小銭を回収して金庫にしまってお疲れした!たいして疲れてないけど。

事業の拡張はこのちょっぴり暇な仕事を継続するためのささやかなモチベーション。
敵をばったばった撃ち倒せるヒーローになれるゲームがあるなら、古本屋の奥の白髪の爺さんや、雑居ビルの管理人室で一日中小型テレビを眺めているおっさんや、鍵で勝手にクレジットを増やして面白くなさそうな顔をしながらゲームを遊んでいるリーゼントのあんちゃんのポジションになれるゲームがあってもいい。
ここはまさに大望や野心をなくした人間のパラダイス。
明日もまた眠い目をこすりながら出勤して、やる気のない掃除から一日を始めるぞ!
*関連記事
【Arcadecraft】オレのゲーセン火の車
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2023/07/21 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ | ↑
2023/07/28 (金) カテゴリー: XBOX Series X|S

チェーン店ばかりになった最近では少なくなったが、ちょっと前までの個人経営や中規模のコインランドリーでは『Arcade Paradise 』よろしく店の片隅にビデオゲームやパチンコの筐体が置かれているのをよく見かけた。
もちろん本格的なゲーセンではない、ちょっとした小銭稼ぎ程度の目的だから、そのゲームもよく言えばポピュラリティのある、ぶっちゃけて言えば当たり障りのないものばかり。
『テトリス』『コラムス』『上海』、あるいは『スーパーリアル麻雀』や『ミスタードリラー』なんてあたりが、コインランドリーの片隅がよく似合うゲームと言ったところだろうか。
いずれも耐用年数の高い名作ばかりである。

そんなロングセラー群の中でオレがもっともコインランドリーに似合うと思うゲーム、それは『アルカノイド』だ。
ゲーセンの暗い照明とは趣を違えたコインランドリーの明るい蛍光灯の下、洗濯機や乾燥機がごとごと音を立てるその片隅で、ボールがブロックに跳ね返る「キンっ!キンっ!」という音が木霊する。
オレにとっては郊外の夜11時の定番の光景だった。

『テトリス』も『上海』も古株のゲームだが、『アルカノイド』はだいぶ年季が違う。
『アルカノイド』の登場自体は1986年だが、そのベースとなったATARIの『ブレイクアウト(ブロック崩し)』はさらに10年近く遡るビデオゲームの始祖鳥みたいな存在だ。
しかしいかにベーシックのアイディアが優れていたとはいえ、ここまで時代を跨いだ普遍性を得たのは、やはり『アルカノイド』のコンセプトの膨らませ方があまりにも優れていたからだろう。

その『アルカノイド』の最新系が本作『Arkanoid Eternal Battle』。
『テトリス』が『Tetris Effect』でデジタルサイケなビジュアルを追及したり、『TETRIS 99』でサドンデス型の大人数対戦を盛り込んだのは比較的最近のことだが、『Arkanoid Eternal Battle 』の発展の形もまさにそれ。
メインとなるエターナルバトルモードは、24人のプレイヤーが一同にアルカノイドをプレイし、得点最下位の者から順次脱落するバトルロイヤルシステムだ。

プレイヤーがラスト3人までに絞られると揃って次元要塞Doh(あのモアイみたいなやつだ)とのボス戦に突入。最後にDohを倒した者が生き残り勝者となる。
このエターナルモード、『TETRIS 99』以上にテンポが良くて面白いんだけど、いかんせんマッチングするプレイヤーが少ないのが玉に瑕だ。

この他にレトロモードと最新の一人用NEOモードを収録。
正直『アルカノイド』の普遍性におんぶ抱っこしたようなリメイクではあるんだけど、それを言い出したら『テトリス』や『パックマン』のモダンリメイクも皆そんな感じなわけで、改めてコインランドリーの片隅は厳選され生き残ったエバーグリーンなゲームたちが集う殿堂みたいな場所だと再認識するのだった。
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2023/07/31 (月) カテゴリー: XBOX Series X|S

チリのピノチェト軍事政権下で殺されたり行方不明になった反体制派の数は公式で3000人以上、何らかの形で迫害を受けた人は10万人に及ぶという。
それではいけないとは分かっていても、どうしても数字で捉えてしまう。
犠牲者が数人であればその人の行動や思いに対して考えを馳せる余地があるが、それが膨大な数に及ぶと無機的な数字の前に思考が硬直化してしまうのだ。

その3000、あるいは10万人の人々にはもちろんそれぞれの人生やシチュエーションがあり、大まかに反体制派として括られていても、それぞれの国に対する愛情の度合いや理想は千差万別であろう。
このゲームの舞台となる架空国家ペトリアも、やはり全体主義政権が幅を利かす国。
その圧政から逃れようと多くの若者たちが国境からの脱出を目指し、そして志半ばで姿を消していく。
そしてペトリア国内や国外のニュースでは、数百人の若者が行方不明と一括りに伝えられ、我々はまた大まかに数字で捉えてしまうのであろう。

だがいずれも名もなき若者たちだってこれまたもちろんそこに至る道筋はそれぞれに違うし、懐具合もばらばらなら道中での出来事や人々との出会いや別れも百人百様だ。
そしてある者は幸運にも国境の向こう側にたどり着き、ある者は国家権力に捕縛され、そしてある者は道中半ばで非業の死を遂げる。
ROAD96を目指すそれぞれの重たい道程が一つ終わりを迎えるごとに、プレイヤーはその重たい結果を受け止めながら別の若者の道のりを綴り出す。

国の圧政からの逃避行では、その判断の一つ一つが重たい。
自分のみならず出会う人々の運命すらも左右する選択の数々は、そのいずれもが重苦しい圧迫感を伴ってくる。
ともすればそれは国や同胞の行く末を決定づける選択となるかもしれない。
だがプレイ中につきまとう閉塞感を和らげてくれるのは、やはり国の現状に翻弄される様々な立場の人たちとのロードムービー的な出会いや交流だ。

『ROAD 96』のもっともユニークなところは、プレイヤーキャラとなる名もなき若者が狂言回し的な役割を担うことによって、真の主人公である人物たちのそれぞれの人生をブリッジする一風変わった構造だ。
警官、トラック運転手、体制派のニュースキャスター、天才少年ハッカー、頭のネジの外れた二人組強盗、シリアルキラーのタクシードライバー。

その無名性も相まって、プレイヤーキャラの若者たちは、これら真の主人公たちに対するモブ的な立ち位置を感じさせることがあるかもしれない。
そしてそれはピノチェトやヴィクトル・ハラといった世に知られた人物たちの向こうに、3000、あるいは10万人の、それぞれの人生や行動や信念や理想が存在していたことを教えてくれるのだ。
この記事に含まれるtag : アドベンチャーゲーム
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