- 【The Artful Escape】デジタルサイケデリックロックオペラ [2021/12/01]
- 【Stilstand】停滞 [2021/12/07]
- 【Isolomus】イソーローマズ [2021/12/09]
- 【Wurroom】ストレンジ粘土ワールド [2021/12/11]
- 【Perfect Dark Zero】パーフェクトダーク ゼロ [2021/12/13]
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一つのストーリーを持ったコンセプトアルバムはロックオペラなどとも称され、ザ・フーの"Tommy"や"四重人格"、プリティ・シングスの"SF Sorrow"、近年ではグリーン・デイの"American Idiot"や"21st Century Breakdown"など数々の名作アルバムを擁するロックの様式だ。
この『The Artful Escape』は、まさにゲーム版ロックオペラとでも呼ぶべき作品。
プレイヤーは"Tommy"や"四重人格"のアルバムを通しで聴いて主人公の物語を追うように、コントローラを通じたインタラクティブなアプローチによって、フランシス・ヴェンディッティという一人の若いミュージシャンの奇妙で壮大な冒険を体験する。

伝説的なフォークミュージシャン、ウディ・ガスリーの息子アーロ・ガスリーは、偉大な父の跡を継ぐようにフォーク・ミュージックの道に進み、"アリスのレストラン"などの名曲を生み出した。
まるで家業を継ぐようにフォークミュージシャンの道を全うしたアーロだが、このゲームの主人公であるフランシスの境遇も非常に似たようなものだ。

彼の伯父ジョンソン・ヴェンディッティはウディとボブ・ディランを合わせたような神格化されたフォークシンガー。
既にこの世を去って久しいが、その名声は広く世界に知れ渡り、生まれ故郷のカリプソはジョンソンを目玉にした観光地となっている。はっきり言えばそれ以外は何も目玉がない街である。

そんな土地で甥っ子のフランシスに誰もが期待するのは、偉大な伯父ジョンソン・ヴェンディッティのクローンとしての存在。
ジョンソンみたいなファッションでフォークギターを手に取りジョンソンの曲を歌う。それ以外のことはビタ一文求められちゃいない。

内心忸怩たるものがあるフランシスだが、伯父のアルバム再発イベントを控えた日に、そんなことどうこう言い出せるような雰囲気じゃない。
そうやって悶々するフランシスの前に、突然宇宙からの来訪者が現れる。
ライトマンと名乗るその宇宙ミュージシャンは、違う自分を探し出すための壮大なビジョンクエストへとフランシスを強引に連れ出すのであった。

プラットフォーマーや音ゲー的な要素もあることはあるが、それらはゲーム的なフックをほんのりともたらす味付けレベルのもの。
しかしゲーム性が皆無という批判は、やがて目の前で展開される圧巻のアートワークと荘厳な演出の前に色を失うであろう。

ユーライア・ヒープやホークウインドのアルバムジャケットがそのまま生命を得たかのように、カラフルに息づく瑞々しいサイケデリックワールド。
そこでフランシスはデヴィッド・ボウイがジギー・スターダストという虚像を名乗ったように、グラマラスロックヒーローとしての新しい自分を手に入れてゆく。

一般に言われる"音ゲー"とはまったくベクトルが違うが、これは紛うことなき音楽ゲーム。
インタラクティブ絵物語に留まった内容にも関わらず、その圧倒的な表現力はコントローラを手に向かい合う者を捉えて離さない魅力が溢れている。
かつて電脳ヒッピーたちが夢見たデジタルサイケデリア表現の、一つの到達点とも言えるインタラクティブなロックオペラ。
個人的に2021年でもっともインパクトがあった一作だ。
この記事に含まれるtag : アドベンチャーゲーム 音楽ゲーム 宇宙
(記事編集) https://bonkura360.blog.fc2.com/blog-entry-3057.html
2021/12/01 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |
高温多湿ジャパンに住む者にはデンマークの夏は快適で過ごしやすそうに見えてしまうが、やはり猛暑になるときはそうも言ってられないらしい。
その暑さに対するイライラは、緻密で神経質なペンタッチを通じて嫌というほど伝わってくる。
『Stilstand』と題されたこの小品は、デンマークの女性アーティストの手による作品。分類的にはやはりデジタルコミックという呼び名が相応しいのだろう。

コペンハーゲンの暑い夏。アパートの部屋に逼塞する一人の若い女性。
"停滞"のタイトル通り、彼女の置かれた状況はどん詰まりもいいところだ。
憂鬱と孤独と無気力に支配され、生きながら壊れ腐ってゆく。
印象的なアニメーションが挟み込まれるコマを、クリックで送り読み進めるシンプルなシステムだが、画面のオブジェクトを弄ったりキャラクターを操作するインタラクティブなパートが、シチュエーションに応じて時々挿入されたりもする。

一日の始まり、タバコかスマホかテレビのリモコンを選択するパートも、そんな数少ない介入要素の一つだが、メランコリーに支配されたことのある人間ならハナからお分かりのように、どれを選んだところで状況を変えるような何かがあるわけじゃない。どうしようもない現実を再確認するだけのことだ。

部屋の中だけに出現する影のような人物は、妄想の産物か、あるいは、彼女の奥底にある悲痛が生み出した概念なのか。
しかしその影法師との至極まっとうな対話も、彼女をどんよりと包み込む憂鬱は受け流してしまう。
パーティーにボーイフレンドとのデート。生活を変えようとするポジティブなアプローチも、すべてが裏目裏目だ。

いにしえのガロに掲載されるようなコミックがベースだが、偏執的なまでに描き込まれた絵が、これまたパラノイアックな演出によってコントロールされた構成は、デジタル媒体で発売されるアートとしてしっかりと完成されている。
任天堂系の大作が表層を占めるその地下で、こうした尖った作品が多く蠢いてる現在のSwitchソフト市場の二面性は、一種の混沌とした成熟の真っ只中なのかもしれない。
(記事編集) https://bonkura360.blog.fc2.com/blog-entry-3058.html
2021/12/07 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |
表立った部分には任天堂の各タイトルや国内メーカーの馴染みのあるソフトが並ぶニンテンドーストア。
おそらくSwitchユーザーの8割はその部分にしか用はないのだろうが、そこからちょっと掘り返してみると海外タイトルやインディーゲーム、乙女ゲーにBLゲー、さらにはスマホアプリからコンバートされてきた有象無象などがごっちゃになって蠢いていて、それは任天堂ハードが作り上げた中でも、歴史上もっとも混沌の度合いが高いソフトマーケットとなっている。

ニンテンドウ64時代の少数精鋭を目論んだソフト市場を知る者には隔世の感があるが、消費者にとっては変に厳選されたストアよりも、玉石混交でディグり甲斐のあるストアの方がありがたい存在であることは確かだ。
『イソーローマズ(Isolomus)』もかつての任天堂ハードでは考えられなかったような作品。
作者のMichael Rfdshir氏はアバンギャルドなクレイアニメーションを主に手掛けるアーティスト。
この『イソーローマズ』も、ゲームと言うよりはインタラクションできるデジタルアートのようなソフトだ。

氏の前作『Wurroom』と同様にポイント&クリック的な要素を加味した一種のインタラクティブムービー。
世が世ならマルチメディアの名の下に分類されていたような作品である。こうした試みは90年代から存在しそれ自体は決して目新しいものではないが、彼の徹底したクレイアニメーションへのこだわりは、やはり特異で目を引かれる。

『Wurroom』は奇怪ではあるけれど、カラフルでサイケデリックなビジュアルに貫かれ、ちょっと尖った子供向け番組なんかに混じっていても不思議ではないような作品であったが、この『イソーローマズ』ではかなりダークで病的な雰囲気へと作風が変化している。
特に粘土オブジェクトをぶちゅっと潰すアクションが異常に増えている(というかほぼそればっか)のは、作者になんかあったんじゃないかと心配したくもなってくるが、『Wurroom』ではあまり表に出てこなかった彼の別の一面が、こちらでは全開になっているのだろう。

Switchユーザーの間では案の定奇ゲーバカゲークソゲーみたいな評価が主を占めているようだが、そういったある意味健全な反応も含めて、こうした前衛アートのようなソフトが入り混じったカオスは賑わいの証明みたいなもの。
これからもクオリティコントロールなんて言葉には背を向けた振り幅の広いストアを維持して貰いたいものである。
(記事編集) https://bonkura360.blog.fc2.com/blog-entry-3059.html
2021/12/09 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |
順番が逆になったがMichael Rfdshir氏の前作となるのが、この『Wurroom』。
こちらはSwitch版が海外ではリリースされているものの、日本国内ストアでの販売は無し。
代わりにSteam版が無料配信されている(他にサウンドトラックとアートブックが、それぞれ有料配信中)。

『イソーローマズ』と同様にクレイアニメーションによるデジタルアート作品だが、連鎖した仕掛けが随所にあるなど、こちらの方がポイントクリックパズルとしての性格が強い。
また淡くもカラフルな色遣いがとても特徴的で、奇抜で独創的なデザインのオブジェクトと相まって、なんとも表現のし難い面妖でユーモラスなサイケデリックワールドを形作っている。

現在次作として『Ultra Strangeness』と『Visceratum』と題された2つのタイトルのリリースが予定されているようだが、公開されているビジュアルイメージやトレーラーを観る限り、方や『Wurrom』のカラフルなサイケデリア世界、方や『イソーローマズ』のダークさを踏襲したクレイアニメーションゲームとなりそうだ。
(記事編集) https://bonkura360.blog.fc2.com/blog-entry-3060.html
2021/12/11 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |
ファーストパーティーの大作タイトルが立て続けに登場し、本体の供給が安定してきたことも相まって盛り上がりを見せているXbox周辺だが、先日12月10日は古株のXboxファンにとってはちょっとした記念日。
今から16年前にXbox 360が日本国内でリリースされた記念日である。
四半世紀近いその数字に360の長寿ぶりを改めて思い知らされるが、そんな360の門出を飾ったパッケージタイトルは全6本。

360の最大の功績はネットワーク対戦のハードルを大きく引き下げたことだが、オンラインマルチプレイの中で最もポピュラーなジャンルはやはりシューター。
ロンチラインナップにあって、そのシューター需要を一手に引き受けたタイトルが、初代Xbox後期にマイクロソフト傘下となったレア社の『Perfect Dark Zero』だ。

前作となる『パーフェクトダーク』はニンテンドウ64を代表する名作のひとつ。
レアと共に移籍してきたこのIPに、販売元のマイクロソフトも特典のDVDや冊子が同梱されたリミテッドエディションを用意して歓迎。
しかしこの限定版、なまじ多く出荷しちゃった為に通常版の方がレアな存在となる、Xboxパッケージソフトあるあるなオチがついてしまった。

ファーストパーティーが送り出すロンチとして大きな期待をかけられた『Perfect Dark Zero』ではあったけど、蓋を開けてみれば新世代機感にはイマイチ乏しい、なんとも煮え切らない一作であった。
しかしそれも仕方ない。なにせ本作、元々が前世代機であるゲームキューブで開発されていたゲーム。
それがレア社の買収を経て初代Xbox、さらにはXbox 360 と身柄を何度も移された経緯がある。
もっさりしたキーレスポンスやふわふわしたキャラクターの挙動、非リニアの素っ気ないステージ構成など、全体に漂う前世代機的な感触も無理からぬ話である。

しかしシューター系のゲームが他に選択肢がない状況ではこれを遊ぶしかない。
Xbox Liveで蘇ったニンテンドウ64テイスト溢れるマルチ対戦でしのぎながら、ユーザーは360のタイトルが出揃うのを待つのであった。
そしてFPSのビッグネームである『バトルフィールド2 モダンコンバット』と『Call of Duty 2』が360発売から半年近くを経てようやく登場。
過渡期のタイトルとも言えるこの二作を間に挟み、いよいよ『ロストプラネット』や『Gears of War』そして『HALO 3』といったシューター新世代を高らかに宣言する作品が登場し、360のFPSTPS界隈は艶やかに花開いた。

そんな360シューター史の中ではいささか分の悪い『Perfect Dark Zero』ではあるけれど、レア社のタイトルということもあり手厚い後方互換でしっかりと延命。
発売から16年も経つとあっては、当時感じた肩透かしな手応えもすっかり風化してしまっている。
そして2021年にプレイする『Perfect Dark Zero』は、キャラクターの造形やブロスナン時代末期の007映画を彷彿とさせるタイトルバック、主人公ジョアンナ・ダークの声を担当する釈由美子など、ゼロ年代の初めを強烈に感じさせる要素が満載の、懐かしくも心地よいノスタルジーに溢れた一作となっているのだった。
この記事に含まれるtag : FPS
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2021/12/13 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |