このページの記事目次 (tag: ミステリ の検索結果)
- 【ディ探偵】Detective Di: The Silk Rose Murders [2022/11/17]
- 【Telling Lies】テリングライズ [2022/09/22]
- 【Chinatown Detective Agency】牛车水侦探社 [2022/05/04]
- 【The Shapeshifting Detective】憑依探偵サム [2022/01/21]
- 【Backbone】反骨の行方 [2022/01/03]
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ディー判事ことディー・レンチェは中国の唐代に実在した行政官。
その業績や才知から後世の人々によって彼を主人公とした物語が語り継がれた流れは、雑な例えになるかもしれないが我が国の大岡越前なんかをイメージすればわかりやすいだろう。

彼の名を広く世界に知らしめたのは日本などで大使を務めたロバート・ファン・フーリックというオランダ人外交官。
東アジアの歴史や文化に造詣が深い彼はディー判事を主人公とした推理小説を1950年代から60年代にかけて次々と上梓し、そのエキゾチックな香り満載の歴史ミステリは大きな人気を博した。

日本でもそのシリーズは過去に数社から翻訳版が出版されていたが、現在では比較的発行の近いハヤカワポケットミステリ版が入手しやすいだろう。
2010年代にはアンディ・ラウやマーク・チャオらを主演に映画作品が立て続けに作られているが、こちらはガイ・リッチー版「シャーロック・ホームズ」みたいなスペクタクルアクション巨編。
本格ミステリであるフーリックの諸作とはかけ離れた内容だが、それでもツイ・ハーク監督による「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」などはなかなか見応えのある一作だ。

『ディ探偵』と翻訳マシン直通な邦題が据えられた本作も、そのディー判事が主役となるゲーム。
最初にこのタイトルをストアで眼にしたときは、まさかディー判事の関連作だとは思わず危うくスルーするところであった。
日本語タイトルはアバウトだが、その中身は洗練されたピクセルドットのビジュアルと本格的なミステリのプロットを擁し、フーリックが描いた唐代推理小説の雰囲気をしっかりと伝えてくるポイント&クリックADVの力作である。

時は中国最初の女帝、則天武后の世。司法省にあたる大理寺を掌握するディー判事は、韓国大使の殺害に始まる一連の事件に挑むこととなる。
それぞれの事件はチャプターで区切られて独立しているが、一見無関係に思われるそれぞれの事件がやがてひとつに纏まっていく流れははフーリックの原作でもお馴染みのプロット。
そして権力を必要悪と割り切る玉虫色の人物である則天武后と謹厳実直なディーの、愛憎と忠誠の入り混じった複雑な関係性は一連の映画版でお馴染みのテーマだ。

ゲーム自体は極めてオーソドックスなポイント&クリック式のアドベンチャーゲーム。
一定のフラグを立てたら推理パートに移行し、選択式の解答で事件を再現できたらチャプタークリア。
調べるポイントはかなり限定的で手の込んだフラグやアイテムの組み合わせもそれほど多くはなく、同趣向のADVとしてはそれほど難易度は高くない。

ただし日本語化はされていないので、かなりの量にのぼる英語テキストには覚悟が必要だ(個人的には中国人名の英語表記は区別がつけ辛くて厄介だった)。
もうひとつ残念なのはフーリックの原作でディーを補佐するチャオ・タイやホン・ガンといった魅力的なキャラクターの部下たちが登場しないところ。
唯一マー・ロンだけが出てくるが、彼もモブすれすれの薄味な脇役に留まってしまってる。
<未日本語化>
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2022/11/17 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |
『Her Story』は衝撃的なゲームだった。
実写ムービーはCGと違って撮影した内容を自在に制御したり変化をつけられない欠点を抱えている。
そうしたハンディキャップからか近年の実写ゲーム(FMV)は、ムービーを準映画的なクオリティに高める一方で、ゲーム性の部分は選択肢による分岐に留める割り切った仕様が主流になっていた。
そんな傾向の中で『Her Story』は、実写ムービーのハンディを逆手に取って、プレイヤーの側から能動的にムービーの断片を収集させそれを再構成させる、新しいインタラクティブなストーリテリングの形を提示したのであった。

その斬新な試みをまとめ上げるために『Her Story』はかなりコンパクトな体裁に収まっていたが、作者のサム・バーロウは次作であるこの『Telling Lies』で、同じコンセプトのさらなるスケールアップに挑んできた。
1990年代を舞台とした『Her Story』は、取調室の証拠ビデオ映像という前提の粗いムービーであったが、『Telling Lies』のそれは誰もがスマホで鮮明なムービーを撮れる時代のパーソナルな動画。
ムービー内の人物が重要参考人だけに留まっていた『Her Story』に対し、本作は複数人の主要人物にまつわる動画が並立する構造となっている。

『Telling Lies』はそうしたシチュエーションの複雑化を破綻なく成立させることに成功している。
開始早々放り出されるのは起点となる一本の動画の前。
なんの状況説明もないまま勝手に進行するムービーに戸惑いながらも、手探り手探り断片的なワードを検索。

その結果で回収された新たな動画からの検索を重ねて、時系列もシチュエーションもバラバラなムービーの視聴を重ねるうちに話の筋書きが段々と繋がってゆく。
五里霧中から徐々に霧が晴れていくようなこの過程のゾクゾクする面白さは、しっかりと『Her Story』譲りだ。

一方で『Her Story』のさらなる発展化としてボリュームアップしたゲームの規模が、実は大きなマイナスの要因となってしまった。
閲覧する動画は長いもので3分超えと尺が伸びてしまい、さらには人に鑑賞させることを前提としていない(という建前の)未編集の記録映像ばかり。
ハッキリ言って目を皿のようにして観るにはいささか辛い冗長なムービーなのだが、どこにキーワードや物語の鍵が転がっているのか分からず、すっ飛ばすわけにもいかないので、自然とプレイは画面を漫然と眺める間延びしたものになってしまう。

基本的に動画を観るだけってのは『Her Story』でも顕著だった特性だが、『Her Story』の場合は一つ一つのムービーがタイトな尺だったから、この辺はさほど気にならなかった。
そしてストーリーの核に魅力が乏しく、嘘つき故に感情移入を拒み、全員を冷めた目で見てしまう登場人物の造形も相まって、話の流れがある程度見えてきてしまってからは、事実を再構築する過程にスリルもあまり感じられなくなってしまう。

意欲作ではあるものの、サム・バーロウ式ストーリテリングのマイナスの部分(これは本来『Her Story』にも内在していたものだ)が顕になってしまった感もある『Telling Lies』。
しかし今回チャレンジした自身の作法のスケールアップ化を足がかりに、彼の次回作はさらなる進化と発展をしっかりと遂げるのであった。
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2022/09/22 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |
西暦2037年。近未来といえば近未来だが、いまからわずか15年後の世界。
実際の感覚ではあっという間に訪れるちょっと先の話である。
世界に君臨していた超大国アメリカが凋落し、替わって中国を中心とするアジア諸国が台頭。.
しかしファジーな全体主義をバックボーンとしたそのアジアの時代も、世界的な資本主義の停滞により勢いを弱め、それにより露わになった管理国家の現実が人々をどんよりと包み込んでいた。
『Chinatown Detective Agency』が背景とする15年後の現実はまあこんなところだ

アジアの新興経済大国シンガポール。アミラ・ダーマはそのチャイナタウンの一角に事務所を構える私立探偵。
かつて敏腕刑事として鳴らしたアミラの下を訪れるのは3人のクライアント。
いずれも愛犬の捜索だとか浮気グセの女房の調査だなんてセコい案件持ちじゃない。シンガポールの社会の中枢に係わる表なり裏なりのVIPばかりだ。
そしてそれぞれの事件はやがてドローンを使った不気味な殺人事件へと集約されてゆく。

舞台は近未来だがゲーム自体はそのピクセルビジュアルも含めて、極めてオーソドックスなポイント&クリック式のアドベンチャーゲーム。
その守旧的なスタイルの中で唯一のフックとなっているのが、謎解きやフラグ立ての一部をゲーム外の検索に依存する一風変わったシステム。

「ググレカス」というセリフも最近では"調べてみました"系ブログの氾濫などで煽り言葉として機能しなくなっているが、とにかく『Chinatown Detective Agency』においては、よっぽどの博識な人でもない限りググらなければ話は進まない。
古典文献の一節、登場人物から推測される小説のタイトル、切手に残された消印の一部から辿る投函先、古代メソポタミア文字の数字の数え方などなど、主にコード入力時に要求されるこれらの謎の答えはすべてネットの海の中。

このシステムと世界の各地を矢継ぎ早に巡る展開は、いにしえのエデュケーションゲーム『カルメン・サンディエゴを追え!』を彷彿とさせるところがある。
しかし残念なことに本作はARゲームやシリアスゲームの側面をそこまで追求しているわけではない。
"ググれ"システムも毛色の変わった一要素程度に留まり、さらにはググらなくても済んじゃうようなお助けキャラの存在が、その一風変わった部分すらもスポイルしてしまう。

さらにこれはコンソール版だけに顕著なのかもしれないが、ゲームの不安定さやインターフェースのぎこちなさがゲーム全体の足をかなり引っ張ってしまっている。
そして本作は日本語化が為されているのだがこれがまた厄介な問題を孕んでいて、一例を挙げると被害者が最後に残したある古典の一節から手がかりを得るパートがあり、これもググって情報を得ることになるのだが、ハンパに日本語に訳された一節だと検索のしようがなくて、結局は原文が表示される英語で進めたほうが手っ取り早かったりするのだ。

アジアンノワールとサイバーパンクが絡み合ったストーリーや魅力的なキャラクター(登場人物はほぼ全員がアジア系)など惹かれる要素は多々あれど、いかんせんあまりにも未整理や練り込み不足な部分が目立ち過ぎて色々と惜しい作品。
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2022/05/04 | Comment (0) | Trackback (0) | ホーム | ↑ ページ先頭へ ↑ |
被害者の名前はドロタ・ショウ。チェロ奏者の若い女性。
殺人事件の調査に街を訪れるプレイヤーの名はサム。とりあえずの便宜的な名前だ。
だって程遠からないうちに、この探偵はありとあらゆる事件関係者にその姿を変えることになるのだから。

フルモーションビデオ。我が国では実写ゲームと言ったほうが、まだ通りがいいのだろうか。
ベースボールの変化球で例えるならナックルボールのような、決してメインストリームになることはないが、なぜか後継が途絶えることなく細々と続いているジャンルだ。
かつては膨大な実写ムービーを収めるために、時にはCD-ROM7枚組だのDVD-ROM3枚組だの(それでいてゲーム自体のボリュームはさほどのものでもない)と力わざが駆使されてきたが、いつの間にやら一般の大作ゲームのほうが実写ゲームの容量をはるかに凌駕する時代になってしまった。

容量の問題はなし崩し的にどうにかなったが、変化の利かない在り物の映像をもとにゲームを構築しなければならない実写ゲームの制約は、一朝一夕にどうにかなるものではない。
ささやかに続く実写ゲームの歴史は、この制約下での、あるいはそれを逆手にとっての試行錯誤の積み重ねでもある。
そしていくらCGが発達しようと、いまだ実写ムービーには及ばないことがある。
人の心のささいなゆらめきや綻び、細かい感情表現などは、やはりまだまだ生身の役者の領分だ(『L.A.ノワール』の尋問パートで、CGキャラクターの演技にどうしようもない大根を感じてしまったのは、オレだけではあるまい)。

とりあえずの容疑者は3人のタロット占い師。
ドロタの殺害を占いで予知していたのが、その容疑の理由だが、世間からは怪しまれるそんな超常的な能力も、場合によっては真に受けておいても損はない。
なにせプレイヤーは赤の他人憑依できる、占い師どころではないトンデモ能力の持ち主なのだから。

サムとして出会う関係者たちは、通り一遍等当たり障りのないことしか証言しないだろう。
事件の糸口を掴むきっかけになるのは謎の憑依能力。
関係者の姿かたちを拝借して別の関係者を訪れる。そこで目のあたりにするのは、サムに対してのときとはあからさまに違う態度。

そこでの何気ない会話や時にはブラフの質問によってあからさまになる、示しあわせたアリバイや隠された男女関係(ときには同性関係)。
それによって露わになった事実をもとに、今度はサムの姿に戻っての訪問で追求や裏取り。その積み重ねで事件の真相に迫ってゆく。

カルトTVドラマ「ツイン・ピークス」や「X-ファイル」的なムードの再現を目論んだゲームはいくつかあるが、前述した理由のようにやはりCGのキャラクターは生身の役者が演じるキメの細かい仕草や表情、台詞回し。それによって観る者に与えるさりげない違和感や心の引っ掛かりにどうしても欠けてしまうきらいがある。
その点『The Shapeshifting Detective』は全編実写映像による俳優の芝居と、ミステリともオカルトともつかぬ曖昧模糊としたストーリーで、それらのテイストを醸し出すことに成功している。

テキストアドベンチャースタイルのバストトップビジュアルが基本で、サスペンスフルな映像には乏しいが、様々な思惑を胸にプレイヤーと向かい合う登場人物には、役者の演技も相まっていつしか妙なシンパシーを感じてくるだろう。
Xbox国内ストアで配信が始まった当初は日本語に未対応だったが、いつの間にやら日本語字幕が選択できるようになり、昨年からはSwitch版の配信も始まっている。
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人間の住む世界を舞台にしているが、出てくるキャラクターは様々な動物を擬人化したものになっている設定をよく見かけたりする。
この獣人キャラが重宝される理由の一つに、人種や民族、あるいは階層といった社会の様々な問題を、現実の具体的な存在にリンクさせずに表現できるメリットがあるからなのだろう。

『Backbone』もそんな動物擬人化キャラで構成されるストーリーテリングに主眼を置いたアドベンチャーゲーム。
主人公のハワード・ローターはアライグマ。職業は私立探偵。
とは言っても素行調査の類がメイン。日本語の場合だとむしろ興信所って表現が正しいところだろう。
プロローグで請け負う仕事も旦那の浮気の尻尾を掴むというありふれたものだ。
場所を押さえて証拠の写真を撮る。そんな簡単な仕事のはずだった。

しかし行方を突き止めた旦那は、洒落にならないシチュエーションで死体となって転がっていた。
これをきっかけにハワードは否応なしに重苦しい事件にに足を踏み入れることになるのだった。
ハードボイルド小説の王道のような展開。
レイモンド・チャンドラーやロス・マクドナルドの時代から半世紀以上の月日が流れ、社会の規範やモラルも大きく変容したが、人々や街をめぐる深い澱みや暗部は不変だ。

そしていかに時代や社会体制が移行しようとも、貧富の格差は永遠に変わらない世の中の根源的な病巣だ。
だからこそ支配する側はそれを本気で治療根絶しようとは間違っても考えやしない。
ハワードの住むバンクーバーも例外ではない。
富める者と貧しい者、支配する側とされる側、我が世の春の謳歌と止めどない抑圧。それらがショーケースのように綺麗に陳列されて街の中に収まっている。

『Backbone』は複雑なフラグ立てや手の混んだパズルもない、一本道のビジュアルノベルのような体裁。
主人公のセリフの選択がストーリーの分岐などに関わるものではなく、他人や事件に対するアティチュードをプレイヤー自身で決定して、自分なりの小説を綴ってゆくようなツールとして機能しているのは、『The Walking Dead』や『The Wolf Among Us』といったかつてのTelltale Gamesの諸作品と非常に共通した部分だ(ニュアンスは多少違うが、獣人探偵のハードボイルドという部分でも『The Wolf Among Us』とは共通項がある)。

相棒であり親友でもあるタクシー運転手、手を組むことになる女性ジャーナリスト、失踪した少女の母親、そして謎多きナイトクラブの女主人。階層も種族も様々なハワードと事件を巡る印象深い人物たち。
弱い者はさらなる弱い者を、強い者はさらなる強い者を手繰り寄せ、浮気調査に始まった事件はドラッグに売春、殺人と混迷の度合いを深めてゆく。

その筋のファンすら納得できるような前半~中盤の本格ハードボイルドから一転、後半は思いもよらぬ方向へ話が転がっていくのだが、その意表を突くSFミステリー的展開やプレイヤーを深い霧の中に置き去りにするようなエンディングも共に目が離せない。
このゲーム、特筆すべき素晴らしいポイントが二つあって、まず最初は8bitや16bit風のレトロ趣味とは一線を画した、ピクセルアートによる写実性をとことん追求したキメの細かいビジュアル。
もう一つは日本版に限ったことだけど、ハードボイルド小説の翻訳調を巧みに再現した、さり気なくも質の高い日本語ローカライズだ。
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